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地球から宇宙空間への極風による大気流出量は太陽活動に影響されないことを発見 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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地 球 か ら 宇 宙 空 間 へ の 極 風 に よ る 大 気 流 出 量 は 太 陽 活 動

に影響されないことを発見

名古屋大学太陽地球環境研究所総合解析部門の北村 成寿(日本学術振興会特別研究 員※論文受理後に JAXA 宇宙科学研究所に異動)、関 華奈子(准教授)らを中心とする研 究グループは、米国NASAの科学衛星FASTによって取得された14年(1996-2009)にわた る電子観測データを使用し、極風(ポーラーウィンド)と呼ばれる地球の極域からの電離 大気の流出現象について、太陽活動の変化が流出量にほとんど影響を与えないことを明 らかにしました。

地球大気の最上部(超高層)は、太陽光の極端紫外線が大気の超高層に入射すると、 原子から電子をはぎ取り、イオンと電子から成る電離大気(プラズマ)となります。この 際に、はぎ取られた電子(光電子)が極風を駆動するのに大きく影響する可能性が、47年 前に初めて極風が提唱された時より指摘されていました。極風イオンの流出量(フラッ クス)の正確な計測は困難ですが、同じ量の電子とイオンが流出していく必要があると いうプラズマの基本的な性質から、光電子の流出量を用いてイオンの流出量を推定する 手法を確立しました。光電子の流出は、太陽活動が活発になると増加することから、長 期間データの利点を活かし、太陽活動の変化がイオン流出量を変化させるかに着目した ところ、変化しないことが明らかになりました。この結果は、光電子ではなく極風の主 成分と考えられている水素イオンの生成速度が、極風による地球大気からのイオン流出 量を決定している事を示唆しています。

この極風は、地球のように固有磁場を持つ、磁化した惑星からの最も基礎的な電離大 気の流出機構であり、今回得られた知見は、ある地球型惑星の大気成分と磁場強度がわ かれば、基本的な大気流出量を推定できる可能性を示唆しています。また、磁場と大気 をもつ地球型惑星からの大気流出や、それに伴う大気進化の理解にも貢献するものであ ります。

本研究は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学バークレー校の 研究者らとの共同研究で行われ、本研究成果は、57日付の国際学術誌(Geophysical Research Letters)に掲載されました。

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【ポイント】

長期にわたる米国 NASA の科学衛星FAST の観測データの解析によって、極風(ポーラー ウィンド)と呼ばれる地球の極域からの電離大気流出現象について、太陽活動の変化がその 流出量にほとんど影響を与えないことを明らかにしました。これは、電離圏での水素イオン の生成量がイオン流出量(フラックス)を決定している事を強く示唆するものです。

極風は、磁化した惑星からの最も基礎的な電離大気の流出機構であり、本研究は、50 年 近くはっきりした結論が得られていなかった極風に対する光電子の役割を実証的に明らか にしました。すなわち、光電子は極風によるイオン流出量には影響せず、イオンの加速にの み影響することが明らかになりました。

今回得られた知見は、磁場と大気をもつ地球型惑星からの大気流出やそれに伴う大気進 化の理解にも貢献するものです。

【背景】

極風は1968年に提案された地球からの電離大気の流出過程のうち最も基礎的な過程です。 地球の極付近では磁場が開いている(反対の半球に繋がっていない)ため、磁力線に沿って 電離大気が流れ出し、超音速に達します。最も初期の論文で、太陽光の極端紫外線が大気の 超高層に入射し、原子からはぎ取られた光電子が極風を駆動するのに大きく影響する可能 性が指摘されました。19892月に打ち上げられ先月(2015423)で運用を終了し たJAXAの「あけぼの」衛星の観測データの解析によって、昼夜(日照の有無)が極風の密度 やイオンの流出速度に影響を与えている事が明らかになるにつれ、光電子の効果の重要性 が注目され、その効果を含めた極風のモデリング研究等が行われたものの、結局どのタイプ のモデルが妥当か定性的にすら合意が得られない状態のままでした。

【研究の内容】

地球を極軌道で周回しているアメリカの科学衛星FASTによって取得された 14(1996- 2009)にわたるプラズマ(そのうち主に低エネルギーの電子)の観測データを使用し、極風に ついて、太陽光により光電子が生成される条件下での観測に着目し、太陽活動度の変化がそ の流出量(フラックス)にほとんど影響を与えないことを明らかにしました。極風イオンの 正確な計測はそのエネルギーの低さのため難しいですが、電子とイオンが同じ量出ていく 必要があるというプラズマの性質から光電子の流出量を用いてイオンの流出量(フラック ス)を推定する手法を確立しました。電離圏から流れ出ようとする光電子は太陽活動が活発 になると増加するので、その変化がイオンの流出量を変化させるかに着目したところ、変化 が見られないということが明らかになりました。これは光電子ではなく、極風の主成分と考 えられている水素イオンの生成量が流出フラックスを決定している事を強く示唆している と考えています。あわせて、流出する光電子はイオンの加速には大きく影響している事も明 らかになり、極風の定量的な理解に向けて、光電子がイオンの流出速度を上げるメカニズム を組み込んだ理論モデルに基づいた研究の重要性を示しました。

【成果の意義】

地球周囲(磁気圏)には太陽からやってきた太陽風起源のプラズマと地球起源のプラズマ (電離大気)が混ざり合っており、その中でオーロラや磁気嵐といった様々な現象が起きて います。極風(ポーラーウィンド)の理解は、それらの現象が起きる領域にどのようにプラズ マが供給されていくのか、どのような影響があるのかの理解への一歩となります。

極風は固有磁場を持った惑星からのプラズマの流出過程で最も基礎的なものであり、今 回得られた知見はより普遍的に惑星からの大気流出やそれに伴う大気進化の理解にも貢献 するものです。電荷交換反応の速度は大気の密度と温度の高度分布から推定できるため、地 球に限らず、系外惑星を含むさまざまな大気への応用が期待できます。また、惑星起源の水 素イオンは地球のように水(水蒸気)を起源とする場合があり、惑星から水が失われていく

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過程の理解にも貢献できる可能性を秘めています。

【用語説明】

・プラズマ

原子から電子がはぎ取られ、電子とイオンに分かれている状態。

磁場に沿った方向には運動しやすい性質がある。電子とイオン 11 つはばらばらに運動 しているが、全体的にはプラスマイナス同数でほぼ中性になっている。

・極風(ポーラーウィンド)

固有磁場を持つ地球の極付近では磁場が開いている(反対の半球に磁力線が繋がっていな い)ため、地球超高層大気を構成するプラズマ(電離大気)が地球周辺から宇宙空間へ向かっ て磁力線に沿って流れ出す過程。

※他にもオーロラに関連した加熱や粒子加速によるイオン流出過程も存在するが、それら が観測に影響するのを抑えるため、磁気圏の活動度が低い時のデータのみを使用している。

・FAST衛星

NASAによって開発され、19968月に打ち上げられ、20094月まで観測が行われた。近 地点350 km、遠地点4175 km、軌道傾斜角83°の極軌道のオーロラ関連現象を観測するた めの科学衛星。本研究では高度3000 km以上で取得されたデータを使用した。

・光電子

太陽光の極端紫外線が大気の超高層に入射し、原子からはぎ取られた電子。

周囲の電離圏の電子よりエネルギーが高いため、磁力線に沿って流出する際に極風のイオ ンを引っ張り上げる効果が大きいのではと指摘されていた。しかしその引っ張り上げる効 果が、イオンの流出速度を上げるのか流出量を増やすのかについては明らかになっていな かった。

・(地球起源の)水素イオン(=陽子)

主に大気中に存在する水蒸気が、超高層大気でばらばらになってできた水素原子がさらに 電離したもの。高度数100 kmで酸素イオンと衝突と水素原子が衝突し電荷を交換して、酸 素原子と水素イオンに変わるという反応で主に生成される。

酸素原子や酸素イオンの密度が高い低高度ではできた水素イオンがすぐに酸素原子と衝突 して水素原子に戻ってしまう。逆に高度が高くなると衝突が起きず、水素イオンはできにく くなる。このため、その中間の高度でできたものが磁力線に沿って流れ出る。そのような高 度では生成反応の速度に限界があり、太陽活動度の増加によって生成反応の速度(生成率) は増加しないことが予想されていた。

【論文名】

題目:Limited impact of escaping photoelectrons on the terrestrial polar wind flux in the polar cap

著者:北村 成寿、関 華奈子(名古屋大学)、西村 幸敏(カリフォルニア大学ロサンゼルス 校)、James P. McFadden(カリフォルニア大学バークレー校)

掲載誌:Geophysical Research Letters(アメリカ合衆国地球物理学連合の査読付き学術 誌)、201557日掲載済み

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極風(ポーラーウィンド)の模式図。磁力線が反対半球に繋がっていない領域(オーロラ帯 に囲まれた領域におおよそ対応)で、イオンと電子が磁力線(図中:灰色線)に沿って惑星間 空間へ流出していく。イオン(図中:a)はエネルギーが極めて低く、観測例が限られ正確な 計測が難しい。プラスマイナスの電荷が同じ数だけ出ていかないと電荷のバランスが取れ ないため、FAST 衛星の高度(4000 km)より高高度(正確な位置までは未解明)で電子を跳 ね返すような磁力線に沿った方向の電位差があり、エネルギーの低い光電子(b)を反射し、 イオンを加速し、電子とイオンのフラックスを釣り合わせている。この電位差のため高エネ ルギーの光電子(図中:c)のみが流出し、この電子を計測することによって、イオンの流出 量を推定し、太陽活動を通じて変化しないことを発見した。

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太陽観測衛星SOHOによって観測された太陽極端紫外線(波長26-34ナノメートル)の強度変 動(灰色線、1 日平均値)。本解析に使用したFAST衛星のデータの存在する日を青点、また は赤点で示している。

※グループ12と分けているのはFAST衛星の電子の観測機の設定変更のため。グループ1 は太陽活動上昇期からピーク付近、グループ2は太陽活動下降期を主に含んでいる。

※※紫外線強度に短期間(数日以下)の急増が見られている期間は、太陽フレアによる高エ ネルギー粒子の影響でデータは正しくない。

FAST衛星によって観測された、太陽極端紫外線(波長26-34 ナノメートル)強度による電子 流出量の変動(赤実線、青実線)。太陽活動上昇、下降期(グループ 12)ともに系統的な依 存性は見られない。参考として、光電子の生成量の指標として、電子の反射が見られない特 別な場合(ピンク色点線、水色点線)についても示している。これらの場合では太陽活動度の 変動によって2.5倍ほど変動している。

参照

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